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クリスマスの夜に【後編】


この話の続き。
見ていない方はこちらからご覧ください。↓
クリスマスの夜に【前編】




一週間が経った。あれから、ミサとトオルの距離はだんだん狭まっていった。
しかし、ミサには気がかりな点があった。


それは、トオルが自分のことを全く話してくれないことだ。
家族構成、職業など。それに必ず夜の20時には、帰ってしまう。
彼は、次の待ち合わせ場所と時間を口頭で告げると、足早に去っていく。
携帯はもっていないらしく、会う以外でコミュニケーションをとることができない。


会ったときは、ミサのことを1番に考えてくれるし、
いわゆる恋人らしいことをしてくれる。
優しくてかっこいい。理想の彼氏像ではあるものの、どこか穴が開いたような気分になる。
もっと彼のことを知りたい。謎が多すぎる関係。
これが従来の恋人関係なのかと思うと少し疑問だ。


ミサは、トオルと別れた後、彼の後を追ってみることにした。
トオルは、ミサとの出会いの場でもある、古い建物に消えていった。

一体あそこで何が行われているというのか。


トオルのことが気になって仕方がない。
なんせ初めての彼氏である。

完全に初めてのボーイフレンドに夢中になっていた。



冬の公園。
ベンチに腰掛けてミサは口を開いた。

「ねぇ、なんだか寂しい。」
毎日会っているうちに距離は縮まってきてはいるものの、
心のどこかに開いている穴のふさぎ方が分からない。



「寂しい?なんで?こうして毎日会ってる。」
トオルはミサの目をまっすぐに見据えて答えた。
その瞳はなんだか、冷たかった。


「はは、なんだよ。俺は好きだよ、ミサのこと。」
トオルはミサの手に自分の手を重ねた。


「だってトオル何も教えてくれない。いつも私ばっかり自分のこと話してて...」


そうミサが口を尖らせて言うと、トオルは少し困り顔で笑った。

「あんまり自分のことしゃべると感情移入...」


「え?..」


「はは、なんでもない。謎が多い男って魅力的じゃない?俺はミサのことがもっと知りたいと思う。だから聞いちゃう。」


「私もトオルのこと知りたい。」


「ねぇ、そんなに俺のこと知りたいの?例えばどんなこと?」
ミサの顔を覗き込むようにトオルは聞いた。


「えっと...趣味とか、家族構成とか?あと、なんで首にスイッチがついているか...」


「このスイッチを押せば、俺は眠る。再びスイッチを押さない限り再び目を覚ますことはない。」


「あなたは...人間?」


「人間だよ。あったかいでしょ?」
トオルはミサの肩を抱き寄せた。


「じゃあなんでスイッチついてんの.....。」


「ミサ、これ見て?」
トオルはボタンのようなものを取り出した。
それは、トオルの首についているソレだった。


「なにこれ。」

「これを首に当ててみると、一瞬の電流と共に、俺みたいになる。その代わり、俺の首のスイッチは外れる。」


「へ....へぇ。なんか、、、すごいね。」


「これをミサがつけたら、俺はミサの言う、人間になる。でも君は人間じゃなくなる。なんてね。」


「ねぇ、それつけるとどんな気分になるの?」


「気分というより...全てが分かるよ。俺たちの関係のことも含めて。」


「ちょっと怖い。」
怖いけど、知りたい。


「これは連鎖なんだ。君がこれをつけた瞬間、俺のモノは外れる。君が、俺についていたソレを他の誰かにつけてもらえば君のモノは外れる...。人間じゃなくなるなんて、一時的なものだよ。それに、これを付けたからと言って、俺たちの関係は変わらない。」


静かな公園に、木々の揺れる音が響き渡る。


ミサは、そっとスイッチを首につけた。


首に鋭い電流が走る。
気がついたらミサは狭い部屋に横たわっていた。

暗い。埃っぽい。


「目が覚めたかい?」
声のする方に首を傾けると、あの老婆がいた。


「あなたは...」


「つけたんだね、首に。」


首を触ると、スイッチがあった。

「あんたは充電式の人間型ロボットになっちまったんだ。21時までに充電しないと、あんた、死ぬよ?」


トオルが毎日20時には帰っていた光景が思い浮かぶ。

「悪いけど、充電器はここにしかないんだ。必ず夜にはここに帰らなきゃね。特に恋人代行を行う以外は私の言う事を基本的に何でも聞いてもらうことにしてる。奴隷生活だよ、はっはっは!さっそくだけど、肩をもんでもらえるかい?」


「...はい。」
ミサは老婆の肩をもんだ。
力を込めて、痛がらせることもできるだろうけど、それをしてしまったら自分の命に保証はない。


「こんな生活が嫌なら、あんたのスカートのポケットに入ってるソレを他の2人につけるんだ。そうしたら開放される。トオルはアンタが二人目だった。だから開放された。今は何やってるか知らないけど、まぁ想像つくよ。彼はね、元はホストでね。今頃、女あそびでもしてるんじゃないかね。」


「え...そんなはずない!!」


「おやまぁ。アンタはここに来て5日になるけど、トオルは一度も顔を見せてないよ?利用されただけだよ。」


利用されただけだよ....老婆の声が反復する。
涙が溢れてきた。絶望。暗い闇の中にミサの心は沈んでいった。


「悔しいだろう?だったらあんたもさっさと2人にソレつけて、開放されて、仕返しでもしたら?」


「....はい。」


-----------------------------------------------------------


「ミサ、出番。」


「はい。」
ミサは一直線に進んだ。渦巻く欲望と共に。



扉を開けるとミサは、不安げな顔をした制服を着た青年に話しかけた。
「こんばんは、私ミサです。今日からあなたの彼女になります、よろしくね!」



END





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クリスマスの夜に【前編】

※この物語はフィクションです。





アルバイトが終わったミサは、ボーっとしながら帰り道を歩いていた。

コンビニの前でサンタのコスプレをした人たちがケーキを売っている。
サラリーマンのおじさんが照れくさそうにケーキを受け取っていた。
家族にでも買って帰るのだろうか。

街中を見渡す限り、2人組であふれかえっている。

そう、今日は---クリスマスイブだ。






イブにアルバイトなんて味気ない。
でも何もしないよりは何かしていたい。
そんな思いでアルバイトのシフト入れたが、失敗だった。


ミサの働く飲食店の店内はカップルで賑わっていた。

「(まぁそうなるよね…。)」


18歳のミサ。彼氏は18年いない。
同じグループのメンバーが着々と彼氏を作っていく中、
自分だけが恋人を作れないことに焦りを感じていた。

「リア充爆発しろ!!!」

そんなミサの気持ちにお構いなしで、友達は彼氏自慢、いわゆる「惚気(のろけ)」をしてくる。


「へぇ、優しい彼氏さんだね。」
と言いながらも心の中では、
「リア充爆発しろ!!!」
「リア充爆発しろ!!!」
と呪文のように唱えていた。


彼氏は欲しい。でも、良いと思う人が全くいない。
いつか、いつか自分にふさわしい人が現れると信じてはいるものの、その「いつか」が来る気配はまるでない。
自分に恋愛は一生できないのではないだろうか。、とさえ思い始めていた。


アルバイト中にもカップル。
夜の街にもカップル。
「ゴキブリのように沸いてきやがる...。」


カップルの結ばれた手を空手チョップでほどき、男女にそれぞれ一発ずつビンタを食らわした。

もちろんこれはミサの想像の話である。


「どこにも行かないで家でのんびり過ごしてた方が良かったかなぁ。」

ミサは空を見上げるように視線を上にずらした。
夜9時の空。街中は明るいのに星は綺麗に見えた。
男は星の数ほどいるのに、なんで私には出会いがないんだろう。


『カラン...』
よそ見をしていたせいか、空き缶を蹴飛ばしてしまった。
空き缶が転がっていった先には、細い道があった。


「(こんなところに道なんてあったっけ...)」



アルバイト帰り。
同じ帰り道を2年間も歩いているのにも関わらず、
こんな道があることに気がつかなかった。


細い道を進んでみると、古びた木造の建物が見えた。
店の前には看板があり、「恋人あります」と黒い文字で書いてある。


「(お店…?)」
胡散臭い看板に少し警戒しつつも、中に足を踏み入れてみる。



店にしては、中は暗く、そしてガランとしていて人の気配が感じられない。
奥に小さなドアが1つあるだけである。
しかし、恋人ありますとはどういうことなのだろうか。
イケメンのお兄さんが出迎えてくれてハグでもしてくれるというのか。

「はは、バカらしい。」


来た道を戻ろうと踵を返したその時。


「おねぇさん、ひとり?」


ビックリして振り返ると声の主は老婆だった。
奥の扉の前に立ち、不敵な笑みを浮かべている。
さっきまで人の気配がなかったのに...
ミサは気味の悪さに恐怖を感じた。


「いや!えっと…友達とこれから会う約束があって...」
ミサはとっさに嘘をついた。


「それを聞いてるんじゃない。あんたは今、ヒトリなのかを聞いてるんだよ。」



「…。」


「店の看板を見て、ここに入ってきたんじゃないの?」


少し間をおいてようやく理解した。
この、おばあさんは私に彼氏がいるのかを聞いているのだ。



「まぁ...ヒトリですけど…。」


「この扉の奥に、あんたの理想の恋人がいるっていったら信じる?」


「え?...」


「まぁ信じられないのも無理はないかもね。けど本当のことしか言わないよ。興味があるならついてきな。」


ミサは好奇心に負けて、老婆についていくことにした。
「...(なんかあったらすぐ逃げればいいだけだし。)」

小さな扉が開かれる。中は埃っぽかった。
狭い部屋。


そこには、端正な顔立ちの青年が倒れていた。

「言っとくけど、死んでないよ。」


「眠ってる?...」


「そう。起こしてやっておくれよ。首にボタンがついてるでしょ?それを押すんだ。」


ロボットなのだろうか。
ミサは首についているボタンを押した。
『カチ...』



「あなたは...」
青年は目を開いた。


驚いて固まるミサに代わり、老婆は口を開いた。

「あんたの彼女。」

「あなたが俺の...よろしくお願いします。トオルです。」

青年は笑みを浮かべると、いきなり握手を求めてきた。
同い年くらいだろうか。まあなんとよくできたロボットだ。


「あぁ…こんばんは。」
恐る恐るトオルの手を握り返す。
トオルの手は、あたたかかった。



「金はいらない。恋ってのは金で買うもんじゃないからね。それじゃお幸せに。とっとと出ていきな。」

老婆に、店の外に追いだされる。


「さ、じゃあ早速デートしよっか?」


ミサの頭は混乱していた。
「ごめんなさい、私何が何だか…あなたは…」


「トオル。さっき紹介したよね?俺のことは、トオルでいいよ。」


「はぁ…。」
そもそも、この人..いや、人と言っていいんだろうか。
首にボタンがついていること自体、意味が分からない。
レンタル彼氏なんてのが流行っているが、それとはまたちょっと違う気がするのだ。


「幽霊とか超能力とか訳わかんないこととか君は信じる?いきなり俺が君の目の前に現れて恋人ですなんてビックリだよね。でも、それは君の価値観だよ。こんなことが普通に起こる世界だってあるんだ。この経験を通して、君は新しい価値観を手に入れる..。一つ言えること、それは、今君と俺はカップルだってこと。あまり深く考えずにこの現実を受け入れてみない?」

トオルは私の手を取ると、古びた建物を後にした。


後編はこちら↓
クリスマスの夜に【後編】









ある娘の物語


※この物語は多分フィクションです。


その娘は比較的、恵まれた家庭に生まれました。
というのも、子供に選択肢をくれる家庭だったからです。

「これはダメ。」

「あれはダメ。」


と最初から否定して、子供の可能性を奪うようなことをしなかったのです。
子供のやりたいことに対しては、賛同し、どんな時でも味方でいてくれる。
だからといって、過干渉もすることなく、大きな愛で娘を包み込むような家庭でした。


ただ、その家族の両親には一つ問題がありました。
それは、「怒ると何をするかわからない」ことです。


何かあるとすぐに、
「高い学費を払ってあげてるでしょ?」
「学校やめさせるよ?」
「出ていきなさい。」などの脅し。
時には、包丁をもって脅してくることもありました。


娘は親のことは大好きでしたが、
そういう一面には日ごろから疑問に思っていました。
娘は大人になったタイミングで、母親に、
包丁を向けられたことがトラウマだと正直に話しました。
母親の機嫌は悪くなったので、娘はもうこれ以上言わないと決めました。


娘は、冒険心あふれる子で自分の行動範囲を広げたいと
アルバイト代をコツコツ貯めて、自動車免許をとりました。
その家族の住んでいるところは電車が近くにない場所で
どこかへ行くためには車が欠かせない存在だったからです。


しかし、娘が免許をとったタイミングに、
父親は、車を新車に買い替えたのです。


家の車を乗らせておらおうと考えていた娘。
しかし、せっかく買った車をぶつけられたら困るという理由で
父親は娘を車に一切、乗せませんでした。
そのくせ、「新しい車の部品を買ったんだ。」などと自慢げに語る
父親に娘はうんざりしていました。



結局、免許をとったのに1度も車に乗っていない娘。
娘はそのことについてかなり不満に思っていました。



ある日、娘はお酒を飲んで少し気が大きくなり、
「20万払って、得たのは身分証明書だけ。車に乗れない。どうして私が免許をとるタイミングで新車にしたの。」
と父親に問い詰めました。


父親は逆上して、娘の1番大事にしている20万近くする楽器を床にたたきつけて壊そうとしたのです。


「やめて!!!」


娘は叫びました。


そのやりとりを見ていた母親は手拍子をしながら

「やーれ♪やーれ♪」

と楽器を壊そうとする父親に、コールしたのです。


娘の身体を色んな感情が支配します。
「私が1番大事にしてるものだって分かってそれ言ってるの?」
「コール?ふざけてるの?」
「信じてたのにどうして...」


笑いながらコールする母親の姿に、娘の頭は真っ白になり
母親を無心で突き飛ばしていました。



「やばい、親に手をあげてしまった。」


そう思う頃には遅く、それを見た父親が娘を突き飛ばし、
娘に馬乗りになって頬を力いっぱい叩きました。
それに続いて、娘の母親も娘の頬を叩きました。


「お前の学費を誰が払ってきたと思ってるんだ!!」
「荷物まとめて出ていきなさい。」
「今まで面倒見てきたけど、もう見ないから。」

完全に2対1の状態でした。


喧嘩はそこで終わり、その日はそれぞれが自分の部屋に戻っていきました。



「こんなことあったら普通もう絶縁だよね。血ってすごいね。」
と母親と父親の会話しているのを娘は聞きました。

しかし、娘は今回のことで相当ショックを受けていました。
今まで、何度も脅しは受けてきましたが、もう娘も大人です。
出て行けと言われれば出ていける年だし、
もう面倒見ないと言われても真に受けてしまいます。


子供の頃は、親が正しくて、愛のある良い家庭で
自分は非常に恵まれているんだと信じていましたが、
親の大人げない行動に疑問を隠せないと同時に幻滅してしまったのです。


娘の心は傷つき、親のことを考えるたびに涙を流していました。
娘は出ていくことに決めました。



数日後、荷物をまとめていると、母親が「どこに行くの?」と聞きました。


娘はぶっきらぼうに「どこだっていいじゃん。」と返しました。


娘の行く手を制すように立ち、母親は言いました。
「出ていかないで。お願い。」

ある程度、貯金はしていましたが、この先本当に生きていけるか
分からなかったので娘は結局、家を出ることをその時はあきらめました。
しかし、それはそれでモヤモヤはたまります。

親の信頼はほぼ0でした。
今まで愛情をもって育ててくれたということには感謝しつつも
これからも一緒に暮らすということに耐えられないという気持ちでした。


娘は、その日から自分の部屋にこもるようになり、
両親と顔をあわさないようにして生活していました。
食事の時間をずらし、リビングには特別な用事がない限り行かないようにしました。


「お風呂はいる?」
「何か食べたいものある?」
「服買ってあげようか?」
そして冷蔵庫には娘の好きな食べ物ばかり。
父親とは一切、交流はなくなりましたが、母親は
娘の気を使うように接しています。

娘はそれにまたイライラするのでした。


部屋に閉じこもったままで、母親が話しかけても無視。
娘は感情の入っていないロボットのようになっていました。


母親は娘に謝罪メールを入れました。

娘は、「正直顔も見たくないし会話もしたくない。この遅れてきた反抗期には期間がある気がする。けど、自立という意味でも私は親から離れないとなんの解決にもならないと思う。だからもうすぐ出ていく。」と返信しました。


娘は、親のことが許せない自分に腹が立っていました。
娘は、信じていたものに裏切られてショックを受けていました。
娘は、親を嫌いだというどうしようもない感情に苦しんでいました。

このまま、娘は出ていくという道を歩むのが正しい選択なのでしょうか。



逆ギレおばあさんと戦った話【後編】

逆ギレおばあさんと戦った話【前編】の続き。
まだ読んでない方はこちらからご覧ください。↓↓

逆ギレおばあさんと戦った話【前編】
******************************



ついにこの日がきた。


私は興奮していた。

プール監視のため、プールエリアに足を踏み入れた瞬間、
上級コースにが泳いでいたからである。



相変わらず、セルライトの二の腕はゆっくり、非常にゆっくり水をかいていた。



「…その二の腕へし折ってやるぜ。」


私はインカム(無線)のスイッチを入れ、社員にメッセージを入れた。

「以前、上級コースを非常にゆっくりのペースで泳いでいる方がいらっしゃいました。ご案内したんですけれども、聞き入れてもらえず、今日もまた同じように上級コースを泳いでいます。対応していただけますでしょうか?」


「今回もまた、ご案内しましたか?」
と男性社員から返事が来た。


また奴に注意しろというのか。注意したって同じことの繰り返しなのは想像できた。
争い事は嫌いだ( ゚Д゚)

「いいえ。しかし、この前非常に強い口調で反発してきたので、今回も注意しても同じだと思います。私では手に負えませんでした。」


「分かりました。対応します。」


キタ━(゚∀゚)━!


しばらくしてプールエリアに、この前相談した若い女性社員が現れた。
【よ!救世主!やっちゃってくださいよ!】

「あの人だよね?」という視線を送ってきたので私は無言でうなずいた。



社員はノロノロ上級コースを泳ぐおばあさんを見ると、
あぁこれは確かに遅すぎるねと言わんばかりに苦笑いしていた。
そして出動である。



近くで見ているのも、ママに隠れた子供のような気まずさがあったので
離れて、遠くから眺めることにした。



しばらくして...
「誰もいないからいいじゃないの!!」
おばあさんの声は予想以上に響き、離れた私の耳にも十分なほど入ってきた。
あぁ…やはりそうか。誰が注意しても同じなんだ。



必死に説得する女性社員。頑張っている。
なんだか、申し訳ない気分になってきた。
「すいませんねぇ、私のトロトロおばあさんが迷惑かけて。。。」
誰かに注意をさせるのはあまり良い気分ではなかったけれど、私じゃどうすることもできないのも事実だ。



ルール違反者に手錠をかけるのはアルバイトではなく社員なのだ。



3分…5分…7分…時間は経過しているが、一向に言い合いが静まる気配はない。
クレームのプロである社員でもこの手こずりようだ。相当なモンスターを野放しにしていたようだ。




『ガチャ…』

コーチ室のドアが開き、男性社員が登場した。
女性社員と入れ替わりに、今度は男性社員がおばあさんの説得を始めた。



…選手交代。しかし、相手が変わっても、おばあさんは怯むことなく
「いいじゃない!?そんなルールどこにも書いてないわよ!」と声を荒げている。



いいじゃない…ね。このおばあさんから、この言葉を何回聞いたことだろうか。
いいじゃないで全てが済むほど甘い世界じゃない。
しかし相当な根性だと感心する。


5分…7分…ついにおばあさんは疲れたらしく、プールを出て、
隣のジャグジーに移った。話し合いは終了したようだった。


「考えとくって言ってたから、とりあえず大丈夫。また何かあったら報告して。」
そう言い残して社員は事務所に戻っていった。



考えとく?...それでいいの?
また同じことをしかねないじゃないか。
そんな甘くしていいのか。

思うことはあったけれども、、あんなに意地を張っていたおばあさんに
ここまで言われたとすれば、やはりさすがである。


「誰もいないからいいじゃないのよねぇ!?早く泳げなんてなんで言われないといけないのよ!!」
おばあさんはジャグジーで他の会員に大声で愚痴っていた。


「はぁ...。」

まるで反省していない。結局社員を呼んだところで、この人に改正の余地はない。
むしろ怒りのボルテージを上げてしまったようだった。どうしようもない。


1時間が経過し、プール監視交代の時間になった。
私は、プール監視を他のバイトに引き継いで、ジムエリアに入った。
今度はマシン指導にとりかからなくてはならない。
「あと2時間の勤務か...。」
モヤモヤした気持ちはまだ抜けずにいた。



しかしこの後からである。

私はマシン指導でジムエリアにいたため
直接その場に居合わせなかったが、
フロントに立つバイトの先輩から聞いた話。



しばらくしてから、プールエリアを出て着替えたおばあさんは、
怒りが収まらないからか、フロントに文句を言いに来た。
「さっきの話、やっぱり納得できないんですけど!」


事務所では、既におばあさんの話が社員全員に共有されていた。
そこに店舗で二番目に偉い社員サブマネージャーの登場である。
サブマネージャーは普段とても優しい人だが、クレーマーの前ではかなり強気だったらしい。


散々優しくルールの説明をしても、納得できないというのであれば、
こちらも強気でいかせてもらう…といったところだろうか。



【おばあさんは強制退会になった。】


強制退会とは、再三の注意にも関わらずルールを守れなかったり、
他の会員に迷惑のかかる行為をした者の行く末だ。


会員という称号を取り上げられ、ジムに出入りができなくなるのである。

ルールを守らず、しかも改善の余地がないと判断された彼女は
強制退会になり、ジムを利用する権利を剥奪された。


大声で怒鳴りつける彼女の憎たらしい顔が頭をよぎった。



サブマネージャーは私の顔を見ると、
「仇、うっといたから!」と笑顔で言った。


悪いやつが成敗される瞬間である。



ルール違反者はたくさんいる。しかし、私は彼らにしっかり向き合わなくてはいけない。
秩序を守るために、そして皆が平和に過ごせるように…
そう胸に誓ったのであった。


完。




逆ギレおばあさんと戦った話【前編】

※この物語は事実をもとにした内容です。


私は大学2年生の頃から約1年半の間に
アルバイトでジムのトレーナーをしていた。(※ポケモンではありません。)



接客業をしている人には実に共感していただきたいのが、
モンスターな客との遭遇である。
くさむらを歩いてると飛び出してくるやつです。(※ポケモンではありません。)


客は神様なんていうけれど、私はモンスターな客と戦ったことがある。
その議事録をここに残そうと思う。



トレーナーの仕事は、筋トレマシンの使い方を教えたり、
運動のアドバイス、ベテランになるとレッスンを持ったりするが、
なかにはプール監視も含まれており、1日平均1~2時間プール監視をすることになっている。



大きなプールエリアにプール監視員は1人。
つまり、ルール違反やマナー、そして溺れる人がいないかなど全て1人でチェックしなければならない。
秩序を乱す者は注意し、溺れる者は助ける。いわばプールの長である。←大げさw



たくさんの人が利用するプールだ。
面倒だが、1人1人が快適に使えるように細かいルールが設けてある。


プールには[初級コース]、[中級コース]、[上級コース]の3種類があり、

・25mを泳ぎきれない人は初級コースで泳ぐ。
・50m以上泳ぎきれる人は上級コースで泳ぐ。


といった具合に泳力別にコース分けがされている。



私はいつも通り、集中して水面を注視していた。
そこに上級コースで泳ぐ1人のおばあさんが目についた。
彼女は確かに休憩せずに50m泳ぎきれてはいた。
しかし、あまりにもスピードが遅い。50mを1分45秒といったところだろうか。



上級コースは50m以上泳ぎきれるのは大前提で、50mを目安として1分30秒以内に
泳ぎきれる人用のコースである。おばあさんは明らかにルール違反をしていた。



上級コースにはおばあさんの他には誰もいない。ピチャピチャと響く水の音
ゆっくりと、しかし確実に水をかいているシワシワの手。
脂肪でプカプカ揺れている二の腕。
おばあさんだって一生懸命泳いでいる。
胸が痛んだ。


「私だって泳がせてあげたい。」


しかしルール違反している以上注意しなければならない。
(彼女がこのままのペースで泳いでいると、思いっきり速く泳ぎたいという人が同じコースで泳げないから。)
これが雇われている身である私の苦渋の決断であった。


おばあさんがプールサイドに近づくのを見計らって私はしゃがんで声をかけた。



「お客様、よろしいでしょうか?」



「……」


私に声をかけられて少し驚いた風ではあったが、目線を私にあわせようとしていない。
自分でも何を注意されるのか分かっている様子だった。

「お客様、こちらのコースは…」



「え!?何言ってんの!?聞こえないんだけど!」



一瞬びっくりして言葉が止まってしまった。
誰でも聞こえるくらいの声の大きさで話しているのに、聞こえないと言ってくるのだ。
嫌な予感がした....こいつは、ヤバい奴だ。
さっきまでかわいかったフニフニのおばあさんの二の腕は、私にとってただのセルライトと化した。


私は少し強めの口調で続けた。
「上級コースは往復1分30分以内に泳がれる方向けのコースとなっております。なので、ゆったり泳がれるようでしたら、こちらのコース(中級コース)で泳いでいただけますでしょうか?」



おばあさんはゴーグルを上にずらし、露わになった老化でたるんだ鋭い目をこちらに向けて言った。

「誰もいないんだからいいじゃない!?」



「誰かいても、いなくてもそれに関わらずこれがルールとなっておりま…」


「ここは選手育成場なんですか!?!?」


「...((((;゚Д゚)))))))」


あぁ…こういうタイプの人には何を言ってもダメだ。
接客業をこうして長く続けているとだいたい分かってくることである。
彼女は声を荒げているため、初級、中級コースの他のお客さんがジロジロとこちらを見ている。
まるで、授業中に先生に1人怒られて注目をあびてしまう生徒の気分だ。


「私も泳がせてあげたい気持ちは山々なんですが、上に厳しく言われておりますので…」
おばあさんのあまりに強い口調に少しひるんでしまった私。


「じゃあ上の人に言ってちょうだい!こんなルールおかしいって。」



「かしこまりました。」
これを社員に報告したってルールが変わることなんてない。
長年このルールで運用していたんだ。
1人のお客さんのわがままが適用されるはずなんてない。
そんなの分かりきっていた。



「おかしいわよ!?そんなルール。誰にも迷惑かけてないんだからいいじゃない!!」
「私はここを運営している偉い人と繋がってるから、あんたなんかすぐクビにできるのよ」



そう言い放つと彼女は何事もなかったかのようにまた、上級コースをのんびり泳ぎ始めた。
私は何のために注意したんだろうか。お互いが嫌な思いをして終わってしまった。

やるせない。


なぜルール違反を指摘しただけで、こんなに罵声を喰らわなければいけないのか。



実は前の職場で諸事情でクビになった私としては、クビをすごく恐れていた。
上級コースをたらたら泳いでいる彼女を再度注意して、自分の身を危険に晒すのであれば、
今回は我慢するしかないという結論に至った。


何もできない自分。無力な自分。なんて役にたたないんだ。

悔しかった。


プール監視を任されている以上、プールの秩序は私だ。
私が全ての責任を負う、そんな覚悟でプール監視をしているのだ。

違反者に手錠もかけられないビビリ監視員。

そんな自分にも腹が立った。



プール監視を終えて、休憩に入った私は今回の出来事を
わりとよく話すような年の近い女社員に話した。

くやしさ、腹立たしさ、色々な感情がもみくちゃにあふれてきて
うまく伝えられたか分からない。
しかし、社員は私の報告を聞き終えると、真っ直ぐな眼差しでこう言った。

「こういう問題は、社員が対応するから次からは社員を呼んで。これは当たり前のことだよ。その場で1人で抱え込もうとしないで。」




「...分かりました。」



あぁ…そうか。社員はクレーム対応のプロだ。
研修の段階でこのようなクレーム対応の訓練もしているエキスパート。
私1人でおばさんをどうにかしようとせずに、すぐ社員を呼んでいれば
こんなことにはなっていなかったんだきっと。
所詮、私はアルバイトなのである。


最初からそうしていれば私の心は傷ついてはいなかったかもしれない。



次、また奴が上級コースを泳いでいたら、すぐ社員に言って
なんとかしてもらえばいいんだ。

よし...


私はそう心に決めたのであった。






はたして第2ラウンドの行方は!?
社員という強力なバックを手に入れたりっちーは
おばあさんをぎゃふんと言わせることができるのか!?


後編に続く。


後編リンク↓↓
逆ギレおばあさんと戦った話【後編】



プロフィール

B.りっちー

Author:B.りっちー
多趣味女子大学生。
最後の学生生活でできることってなんだろう。
ぶっとんだことしてみたい。
バカなことしてみたい(´゚д゚`)


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